夢剣 笹沢左保

実は股旅物

光文社時代小説文庫(90.6.20)

全十篇が収められているのですが、タイトルから連想される、武士階級が主人公の話は四篇のみ。しかもそのうち「闇の鈴」「雪の追分」にかんしては股旅要素もあるので、八割が――つまりは、ほぼ股旅ものです。

タイトルで食わず嫌いにならず、笹沢股旅ものが好物の方々には、もし見かけた折入手して損はない隠れた逸品です。

 

個人的には関所破りがテーマである「裏街道を往く人々」が気に入りました。

剣劇もなく淡々と進んでいく描写が却って印象に残ったのです。

桑名行きの夜間航行中の一挿話である「七里の渡し船」も同趣向なのですが、こちらは笹沢時代劇お約束のあれがあります。

この「裏街道を往く人々」は本書中もっとも枚数が少ないゆえか、それがありません。

その点もまた新鮮で、良かったのでした。

 

先ごろ、文庫にて久々に「見返り峠の落日」が再刊されました。

これを機に笹沢左保の股旅ものが続々と救い上げられたらいいな、と思っております。