アメリカの老富豪が贈る超(リアル)・処世訓 アラン・フォックス

ディスカバー・トゥエンティワン(15.9.30)

原題はPEOPLE TOOLS(′14)。

弁護士/公認会計士であり、不動産ビジネスも手掛けている著者(刊行自73歳)が、充実した人間関係を築くために身に着けてきたツールのうち、優先順位の高い50項目について解説する。

 

そのほとんどは、解説される前にタイトルを見ただけで内容の想像がつくが、中にはそうでもないものもある。

ここでは、その変わり種を一つ紹介したい。

35 ニンジンをぶらさげる、だ。

 

著者によると、ニンジンの使い方には二種類あるという。

1.望ましい行動への報酬として用いる

2.相手の行動を遅らせる、あるいはすぐに行動させる手段として用いる

ニンジンを用いる、となるとたいがい最初に挙げたほうを思い浮かべるのではないだろうか。

わたしもそうだったし、さらには2番目に挙げたほうの観点が欠けていたので、新鮮であった。

ちなみに著者の具体例はこうである。

 

シャッター修理のため、自宅に業者を呼んだときのこと。

作業はスムーズに進まず、三週目の金曜日になってようやく、95%完了する。

その日業者の社長が来訪、95%分の代金を請求したうえで、今日は作業員の手配がつかないため、残りは来週に完成させる、といってきた。

それに対し著者は、当初の説明通りに、作業が完全に終了した時点で全額を払う、と突っぱねた。

結局社長は、今日中に作業できるスタッフを見つけて、その日のうちに修理を完了させたのであった。

 

どうやら、与えるニンジンの本質が違らしい。

報酬系のニンジンは相手の喜ぶものを選択すればこと足れりだが、「行動を遅らせる、またはすぐに行動させるニンジン」にかんしては、必ずしもそうではないようだ。

ここがかんどころといふか、ここを間違ってはいけない。

例えば先ほどの例。報酬系のニンジンの発想(=相手の喜ぶもの)に陥ると、業者の社長に95%分の代金を渡してしまえばいい、と云うことになってしまわないだらうか?

著者は、さうしてしまったらシャッターはなおらないままだっただらうと述懐してゐる。

いずれにせよ、こちらのニンジン(=支払)にしても、相手を釣るもの/目の前にぶら下げるべきものであることは、報酬系と同じなのだ。

そこが紛らわしいが、矢張り別モノと考えるべきだらう。

いわゆるニンジンとはちょっと違うが、見かけがニンジンなので、使い方に充分留意する必要がある、といふことだ。

 

最後に、本書で解説されたピープルツールの50項を列挙する。

1.社会には表のルールと裏のルールがあることを忘れない

2.役に立たない思い込みは捨てる

3.じょうずにNOと言う

4.YESで自分と相手の心をほぐす

5.気軽に質問する

6.言葉と行動を一致させる

7.人のパターンは変わらないことを知る

8.自分自身を知る

9.外見にとらわれず本質を見極める

10.失敗を予想しない

11.まず行動を起こす

12.ターゲットを広げる

13.80%で満足する

14.理想を低くする

15.支払ってしまったお金のことは忘れる

16.完璧を目指すのではなく、結果を完璧だと思って満足する

17.リスクを恐れずチャンスに賭ける

18.先入観に縛られない

19.第一印象をよくする

20.失敗を活かす

21.気に入らないもので我慢しない

22.4つのCで危機を乗り越える

23.潜在意識で問題を解決する

24.決断したからには笑顔で実行する

25.「もう少し欲しい」というところでやめておく

26.思い出してもしかたがないことは記憶から消去する

27.モノについて思いわずらうのはやめる

28.メリットは大きく、デメリットは小さく考える

29.個性の違いを尊重する

30.よい行動を見つけてほめる

31.よい情報を伝えてくれた人にお礼を忘れない

32.「おおむね平等」な関係をつくる

33.まずは優しくする

34.効率的に交渉する

35.ニンジンをぶらさげる

36.子どもに対してぶれない方針を示す

37.謝罪すべきときにはきちんと謝罪する

38.相手から先に行動させる

39.操作しない、操作されない

40.押すだけでなく時には引く

41.適度な距離を保つ

42.ひたすら聞くだけの時間を持つ

43.不要なものは捨てる

44.今持っているものに満足する

45.運命に身を委ねる

46.慣れないことに挑戦する

47.互いに支え合う

48.プロセスを重視し、結果にこだわらない

49.人生に大切なことに意識を向ける

50.いつも別の選択肢を考えてみる